僕は死んだ。
それは理解しているし、心残りはあるけど、ある程度受け入れている。なんてったって、身に染みて『痛み』というのと、明確な『死』を感じたのだから。
でも、不思議なことにあの後意識が戻ったのだ。戸惑いは勿論あったが、嬉しい気持ちが勝ち、僕は急いでご主人の居る家に戻った。
家の前に着き鳴き声をあげる。しばらくすると、ドアが乱暴に開いた。
「ミミ!」
そう叫びながら辺りを見渡しているが一向に僕に気付く気配がない。
ーーここにいるよ!ーー
僕も必死に鳴いて自分はここに居るとアピールする。それでも、ご主人は気づかない。
「やっぱり聞き間違いか……」
え? 僕はここに居るよ! と、鳴くが気づかない。ご主人はドアを閉めた。
ギリギリ中に滑り込むことが出来たが、ご主人が僕に気付く様子が全くなく、虚ろな目でテレビを見ている。
それでも、鳴き続けたが、1日2日と時間が過ぎていくうちに、あぁ、僕は死んで幽霊になったのかな? と思い始めた。
ご主人の生活は僕がいていた頃より荒れている。ゴミ袋はそこらかしこにあるし、部屋も暗く明かりはテレビの光1つだけだ。
単なる思い過ごしかもしれないが、多分僕がいなくなったからこんな事になったと、思う。
何時も側にいたし、僕だってご主人が居なくなったら寂しさでどうにかなってしまうと思うからだ。
どうにかしてあげたい。でも、何も出来ない僕。
それが今の現状だった。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。