第19話

お姫さまだっこ
1,388
2021/04/16 20:10

翌日。


朝から空はうす暗い灰色で、
雲と雲が重なり合って、
今にも雨が降りそうだ。


そういえば、天気予報でも
雨が降るって言ってたっけ。


でもスクールバックのなかには、
折りたたみ傘も入れたし大丈夫かな。

山本恵里香
山本恵里香
ハァハァっ

いつもの駅に小走りで向かえば、
ベンチに見覚えのある後ろ姿を見つけて、
ドキドキと胸が高鳴る。


間違いない、
あの少し立っている寝ぐせ具合。

山本恵里香
山本恵里香
俊、お待たせ!!
今日は早いんだね
渡辺俊
渡辺俊
うん。頑張ったよ。
朝は苦手だけど、
僕が先に恵里香を待ちたいし。

さり気ない俊の優しさに、
胸がきゅんと甘く締めつけられる。
渡辺俊
渡辺俊
立ってるの疲れるでしょ。
いいよ。座って。

そう言って、となりに座るよう、
俊はベンチをぽんぽんとたたいた。

山本恵里香
山本恵里香
うん、ありがとうっ
渡辺俊
渡辺俊
あのさぁ……
山本恵里香
山本恵里香
ん??
渡辺俊
渡辺俊
昨日の夜。どこ行ってたの?

怪しむような鋭い目を向けられる。

山本恵里香
山本恵里香
……えっ??
ふら〜っとコンビニ寄っただけだよ
渡辺俊
渡辺俊
お会計……店員は?男?
山本恵里香
山本恵里香
うん、でもおじさんだったよ
渡辺俊
渡辺俊
まぁー……合格。
ちょっと気に食わないけど。
山本恵里香
山本恵里香
いや、別にお会計くらいは
心配しなくてもいいんじゃ……


いつの間にか、チェックを始めていた俊。


昨日何も言わないで、コンビニに行ったから、
それでずっと行き先が気になってたのかな。

渡辺俊
渡辺俊
コンビニ行くんだったら、僕も着いてくし。
山本恵里香
山本恵里香
じゃあ……今度お願いっ


どうしてもシロちゃんのエサを、
サプライズで見せたかったの。

不安にさせてごめんね、俊……。


*


電車から降りたあと、
いつもの通学路を
俊と並んで歩いていく。


すると、俊がふと立ち止まって
何やら遠くのほうを指さす。
渡辺俊
渡辺俊
あ、シロ

見ると、シロちゃんが
ちょこんと座っている。

外は小雨になってきたのに、
それでも濡れたまま
待っているようだった。


山本恵里香
山本恵里香
シロちゃん、体冷やしたら
風邪引いちゃうよ……


しゃがんで、シロちゃんの頭や体を
ハンカチで拭いてあげる。


渡辺俊
渡辺俊
どっかないかな。
山本恵里香
山本恵里香
え??
渡辺俊
渡辺俊
濡れない場所。
山本恵里香
山本恵里香
あっ、それなら大丈夫!!

スクールバッグから
紺の折りたたみを取り出して、
シロちゃんの近くに差して上げた。

2本入れてて良かった。
渡辺俊
渡辺俊
やるじゃん、恵里香。
山本恵里香
山本恵里香
えへへっ、それと……
実は昨日ね、コンビニで
これを買ってたの
渡辺俊
渡辺俊
え。猫用のエサ?

缶詰のフタを開けて、
シロちゃんのそばに
そっと置いてあげる。

すると、シロちゃんは
興味津々な様子で顔を近づけ、
まずは匂いを確認する。

そして気に入ったのか、
バクバクと食べ始めた。

山本恵里香
山本恵里香
良かった!!
食べてくれてるよー!?
渡辺俊
渡辺俊
それ、好みなのかもね。

……それとさ。
なんか、さっきはごめん。

俊が申し訳なさそうな顔で謝る。

山本恵里香
山本恵里香
ううん、私の方こそ
コソコソ買ったりしたから……
心配させてごめんね


行く先も教えずに別れたら、
心配するのも無理ないもんね。


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