学校の下駄箱で、
上履きに履き替えていた時。
階段から顔を出した亜莉朱ちゃんが、
親切に教えてくれる。
顔を上げると、時計の針は
8:30分をさしていた。
着替えるにはギリギリかもっ……。
私の笑顔に、少しだけ俊は浮かない顔をしたけど
頷いて先に行ってくれる。
こんなゆっくりしてる場合じゃないっ!!
急いで、私もジャージにならなきゃ。
階段を早足で上がって、教室に向かった。
*
ガラガラ。
ドアをスライドさせると、
教室には誰もおらず、
時計の針だけが音を立てている。
ちゃんとロッカーに、
ジャージを入れておいたはずなんだけど……。
どうしてか見当たらない。
時間だけがひたすら過ぎていき、
いくら探してもジャージは見つからないまま。
これじゃあ……。
体育に行けないよ……。
それよりも先生に叱られてしまう……。
いつの間にか、目には
大粒の涙がたまっていて、
映る視界はぼやけていた。
ごしごしと乱暴に目を擦る。
……泣いてても、しょうがないよね。
見つからないんだもん。
今日の体育は見学にしよう。
そう、諦めかけた時。
後ろから、ハッキリと声が聞こえた。
それと同時に涙が引っ込む。
え……どうして……。
不安になってる私を、いつも君は安心させる。
下に俯きながら唇をきゅっと噛む。
そっと俊の手が頬に触れる。
どうして、そんなに優しいの……??
まるで自分のことのように心配してくれて。
俊は私の体をぎゅっと抱きしめ、
優しく頭をなでてくれる。
ねぇ……俊。
これは嫌がらせ、なのかな??
おたがいの体が離れると、俊はただ微笑んだ。
何も聞かず。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。