この場所であなたと出会い、
時が過ぎ…。
「卒業生代表、時透無一郎」
入学式で総代をつとめた無一郎は、
卒業式でも総代だった。
わたしたちの高校3年間は
すごい密度で過ぎ去って行った。
無一郎とわたしの間には、
愛、友情、慈しみ、
憧憬、狂気、いたわる心、
不安、感謝…
幸せを希う気持ち…
欲望…
すべてがつまっていた。
***
卒業式が終わり、
学校の屋上に来た。
無一郎は、
いつになく真剣な顔で、
わたしの両手をにぎった。
なんか、まぬけな返事になった。
無一郎は一瞬驚いた。
のち、笑顔を見せると、
わたしを胸に抱き寄せた。
やばい、泣きそう…。
無一郎の胸の中で、
3年分は泣いた。
その間ずっと、
優しく抱きしめてくれていた。
どれだけ泣いても、
涙がかれなかった。
目の前の無一郎が
すべてを受け入れ、守ってくれる。
わたしもこの人を守り抜きたい。
えらいこっちゃ。
まあ、頼れる夫になりそう…かな!?
***
わたしの家。
バタッ
お父さんが倒れた。
***
無一郎の家。
拍子抜けするほど、祝福してもらえて、
わたしはまた泣きそうだった。
そして、がんばろうって強く思った。
わたしたちは、彼氏と彼女で
夫と妻になり、
お父さんとお母さんになるんだ。
予定してた未来とは、ちょっと違うけど
予定外のことが起こるから楽しい。
人生ってそーいうもんだ!
無一郎とならそれができる。
大好きだよ、無一郎!!
次話、エピローグ、16年後…
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!