中庭で本を読むあなたに
時透くんが近づく。
本のカバーをめくると、中は詩集ではない。
「株のもうけ方」だった。
自分らしく…か。
むずかしいな。
時透くんは、プリントをのぞきこんだ。
わたしは今、
非常かつ緊急かつ、
重大な問題に直面していた。
ー わたしたちはまだ、つきあってない ー
ありのまんまが好き…って
さりげなく言われたのにっ!!
ばか!わたしのばかばか!
やばい。
このまま何事もなかったように、
友達づきあいをしている場合じゃない。
もっか、わたしの最優先至上命題、
それはっ…
「時透くんに告白すること」
なのだ!!
***
これは作戦である。
人のいない理科室に時透くんを連れてゆき、
告白をするんである。
ガラッ
ドヤドヤ
***
図書室。
わたしは、時透くんを、壁に押しつけた。
ピンポンパンポン(放送)
「1-A 時透、至急職員室まで…」
***
家。
教訓。
一度逃したチャンスを取り戻すには
大変な労力を要するものである。
時透くんのどこがいいかって言うと、
頭のよさや、性格のよさはもちろん、
スポーツ万能、
上品で、落ちついてて、
柔らかい声がねぇ…すてきねぇ…
どこか憂いのある目で、
サラサラした髪とか、
すらっとしたスタイルだとか…!
その時透くんが、
わたしのことを、好き…だというっ!
告白作戦、つづく。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!