約束の時間になって
玄関を開けると
モトキくんが立っていた
びっくりした
って言うと
あぁ…って小さく呟いて
ごめんって言いながら
後ろに下がった
玄関の扉を閉める
しばらく 沈黙が続いた
さっきは ごめん
ってモトキくんは言った
こっちこそ ごめんね
って言ったら
謝るのは俺でしょ
あなたは悪くないんだから
って
いっつも 淡々と話すモトキくんが
なかなか話さない姿は
見ていて不思議な感じだった
平気!平気!
あ、ほら!まぁ、あのー
事故みたいなもんでしょ?
大丈夫。大丈夫。
気にしないで!
この雰囲気が嫌で
私は無理に明るく笑った
そういうのヤダ
ってモトキくんが呟いた
また沈黙が続く
ねぇ
モトキくんは何に謝ってるの?
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!