〈 貴女は世界一 , 可愛い 〉
こう言われて成長してきた。
私は 世界一の美少女 だと自分でも思っていた時期はあった。
小さくて綺麗な輪郭に大きな瞳。165㌢という身長で体重が40㌔という細身な体型。
世にいる女性、誰もが羨む顔と体型のはずなのに、私には友達というものがいなかった。
逆に嫌われていた。
可愛い顔なのに、" ブス " と馬鹿にされ、少し男子と話しただけで " 男好き " だと罵られ、鏡の前で前髪チェックをしてただけで " ナルシスト " だと言われた。
だから、私は 自分の顔 が嫌いだった。
コンプレックスだった。
でも、高校2年生になって2日目。
クラスメイトが話しかけてきた。
" 可愛い " と言われた。
" ブス " じゃなくて " 可愛い " って!
凄く嬉しかった。
初めての友達が出来た。
それからの学校生活は楽しかった。
桜は私の顔を可愛いと何度も言ってくれた。
それだけで、コンプレックスだった顔に自信を持てるようになった。
私は桜が大好き ___
___ だったのに。
桜は私にカッターナイフを向けてきた。
桜は私の制服を切り裂いた。
切り裂くときの桜の顔は笑っていた。
私は恐怖を感じた。
怖い、これが桜なの?
桜は何かに呪われているかのようだった。
1ヶ月が過ぎた頃からだろうか、桜が元に戻ったのは。
私の心と身体は1ヶ月間でズタズタに傷ついた。棘が刺さっているかのように痛かった。
─── 楽になりたい。
ふと、思った。
屋上の、四角い手すりの上でつま先立ちをする。
今なら空を飛べそう、そんな事を思った。
後ろから桜の叫び声が聞こえた。
私は笑った。
桜が可愛いって言ってくれた顔で生きてきた中で1番の笑みを桜にプレゼントした。
_____ 私は空を舞った。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!