(駄目だ…琳華さんのこと考えちゃ駄目)
自分にそう言い聞かせながら
みんなのところに戻った。
(平常心!平常心!)
そう言ってその場は凌いだ。
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午後からの試合。
接戦だった。
とてもいい試合だったが
2-1で負けてしまった。
惜しかった。とても。
"応援、ありがとうございました!"
2年生3人は涙を流していた。
私の横ではずっと笑顔の衛輔くんも泣いていた。
(…衛輔くん……)
相手チームの応援先を見ると
そこには琳華さんがいた。
(相手チームの高校だったんだ…)
黒尾先輩は少し気まずそうにしていた。
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薫とひいちゃんは夜に用事があるため
先に帰った。
私とハルは選手たちに声をかけようと思い、
チームミーティングが終わるのを待っていた。
すると…
琳華さんが声をかけてきた。
そう聞かれたが、わたしにはわからない。
もちろん、ハルもわからない。
そう言って彼女は会釈をし、
近くの椅子に座って待っていた。
全員ジャージに着替え、
もう帰る準備も終わり
解散することになった。
彼は悲しそうに話していた。
衛輔くんはチームのリベロで守備の要。
今日もとても活躍していた。
"来年こそ"と前を向いている衛輔くんを見て安心した。
黒尾先輩は琳華さんならそう伝え、
「じゃね!」と私たちに言って彼女の元に向かった。
(…いいなあ、黒尾先輩と帰るのかあ)
わたしがそう思っていると…
そう言って衛輔くんは
玄関に向かった。
その後ろをついていく。
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衛輔くんとわかれて家に帰ってから
私は黒尾先輩と琳華さんのことを考えていた。
(はぁ…琳華さんってどんな人なんだろ…)
黒髪ストレートの
とっても大人っぽい人だった。
年上な感じがしたけど、どうなんだろうか。
どういう関係なんだろうか。
黒尾先輩は、琳華さんが好きなのか。
黒尾先輩のタイプってどんな人なのか。
黒尾先輩のこと…、名前で呼んでたな…。
黒尾先輩…
今までに経験したことなかった。
私はきっと、黒尾先輩のことが気になっているのだ。
これが恋なのかどうか、私には分からない。
でも、黒尾先輩ともっと話したい
黒尾先輩のことをもっと知りたいと
思うようになっていたのだ。
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あれから約1ヶ月。
もうすぐ12月。クリスマスの時期だ。
残念ながら、今年はバイトで埋まっている。
そう、つい先日
ハルとひいちゃんは付き合ったのだ。
昔からこの二人は両想いなのに。
と思っていたので、本当に良かった。
私は長期休暇限定で
掛け持ちをする予定だ。
12月23.24.25日は
ケーキ屋さんでアルバイトの予定が入っている。
それ以外はいつものカフェでバイトだ。
忙しくなりそうだが、25日が終われば
母とクリスマスパーティーをする。
年越しはみんなと一緒だし、頑張れそうだ。
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最近、黒尾先輩と話せていない。
春高予選が終わってからの
バレー部の話を衛輔くんに聞いた。
新チームのキャプテンは黒尾先輩らしい。
衛輔くんたちは自分たちの代で
絶対春高に行くと先輩たちと約束したのだという。
(頑張ってほしいなあ)
私もできる限り応援に行こうと決めた。
たまに体育館まで部活を見に行くことがある。
衛輔くんに練習の写真もたまには撮ってほしいと言われるので、時々お邪魔している。
黒尾先輩、面白くておちゃらけた人なのかと思っていたがとても真面目で、指示も的確で
キャプテンに抜擢されただけあるなと感じた。
(あ…やっぱり、かっこいいって思ってる)
琳華さんと黒尾先輩がふたりでいるのを見たあの日から、私は胸がザワザワしていた。
この感情が未だにどういうものか私には分からないけど。
黒尾先輩が私に気付いた。
そう言って笑う彼。
でも、琳華さんに向けられていた笑顔とは違っていた。
やっぱり、私にはあの笑顔は見せてくれないのだろう。
少し、悲しくなった。
私だって、あの笑顔が見たい。
私にもあの笑顔を向けてほしい。
そう、思うようになった。
そう言った彼はとても大人びて見えた。
(あ……こんな表情もするんだ…)
一瞬一瞬を逃したくなかった。
黒尾先輩の全てを知りたいと思ってしまった。
この時にはもう、自覚していたのだと思う。
いつの間にか
彼を目で追うようになって
彼のそばにいたいと思うようになって
彼の支えになりたいと思うようになって
琳華さんに敵わないのは分かっている。
琳華さん以上になれないことも分かっている。
誰もいないギャラリーで
たまたま黒尾さんに会えて
たまたま黒尾さんと話せて
ただそれだけで舞い上がって。
春高予選ぶりに話した。
それだけで嬉しかった。
こんなこと、言うつもりはなかった。
ごめんなさい、黒尾先輩。
私、貴方が好きです。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!