その日、黒尾くんを誘ってみたが
案の定、彼は今日も帰らないと言ってきた。
ちょっと怪しいな、と感じて彼を待ってみたが
彼は聖奈ちゃんと玄関を出た。
(やっぱり、聖奈ちゃんと帰るんだ…)
後ろから聞こえたのは衛輔くんの声。
頭をポンポンとされ
「今日は俺と帰ろう」と言ってくれた。
衛輔くんの横に並んで帰る。
こうやって一緒に帰るのはいつぶりだろうか。
衛輔くんは気づいていたみたいだ。
最近私たちが上手くいっていないことを。
そんなにあからさまなのか…
部活中も黒尾くんにベタベタだし
彼女がいることも分かってるのに
毎日昼休みにも会いに来ているらしい。
衛輔くんが何か言いかけた時、
彼の歩く足が止まった。
私はさっきまで俯いていた。
顔を上げると同じ制服を着た男女がいた。
楽しそうに笑い合う2人。
声に出てしまいそうだった。
「なんでその子と一緒なの?」って
「相談乗るだけってそんなに楽しいの?」って
彼らは私たちに気づかないまま歩いて行った。
私は足がすくんで動けなくなっていた。
衛輔くんは私をぎゅっと抱き寄せた
彼は耳元ではっきりとそう言った。
突然の衛輔くんからの告白。
いつも隣にいたのに
私が気づけなかった衛輔くんの気持ち。
そう言って彼は悲しそうに笑っていた。
私は何も言えずただ、彼の腕の中で涙を流した。
(ごめん、衛輔くん…っ)
彼はそう言って私から離れてまた隣に立った。
昔から衛輔くんは
私のことを笑顔にしてくれる。
そんな彼がこうやって自分の気持ちを言ってくれたのは初めてだった。
彼はハハっと笑って
頭を優しく撫でてくれた。
私は彼のことも少し意識しようと思った。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。