地面に裏返しになっているカードを拾い、ゾムが観戦している生徒の方へ走っていく。その観戦席は一年生の席だ。
何かを叫んでいるようだが、ここまで聞こえない。叫ばれている周辺の生徒たちは、キョロキョロと辺りを見渡し、声をかけあっている。既にトップは折り返し地点へ向かって走り出す。ゾムの方は、少し背の小さな女の子が恥ずかしそうにゾムの前へやってきた。
その女の子にカードを見せ、女の子が頷く。ゾムが手を差し出し、女の子はその手を握った。見るからに運動部ではなさそうな、身体の細い女の子はゾムに引っ張られながら折り返し地点へ走る。女の子を多少気にしながら、ゾムは少し遅めに走る。
トップは既にゴールをし、ゾムより後ろにいた一組の人は、体育の先生と手を繋いでゾム達を抜かした。恐らく一組の人が引いたお題は、体育の先生だったんだろう。
これはラッキーだ。それから、四組の人も椅子を担いでゴールした。四着でゾム達がゴールテープを切る。カードを係の生徒に見せ、女の子に何かを尋ねていた。女の子は息を切らせている様子で、胸に手をあてながらゆっくりと呼吸をする。
その子はコクコクと頷き、その場を去ろうとしたがゾムに引き留められた。ゾムが手を差し出し、恐る恐るその手を女の子が握る。背中を向けて観戦席に戻る女の子の肩をとんとんと叩き、送り出した。
それから、前髪を止めていたゴムを乱暴に取ってポケットにつっこむと、その場に腰をおろして顔を下げていた。あれは、相当悔しかったんだな。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。