私が玄関を開けると部屋の奥から母が飛び出してきた。
久しぶりに会った母は白髪が増え少しやつれていた。
私の事で気苦労が絶えないのだろう。
そう言うとお母さんは私に抱きついてきた。
母はそっと私の手を取り手首を擦り出した。
そこには、自分で手首を切った跡がある。
母はポロポロと涙を流した。
私は精一杯の笑顔で応えそっと母の手に手を添えた。
松葉杖をつきながら父が顔を出した。
私は深深と父に頭を下げた。
父はそう言うと松葉杖をつきながら部屋へと向かって歩き出した。
私は静かに泣いた。
私は心の何処かで優也が亡くなったのは私の所為だと思う事があった。
私と出会わなければ、私と付き合わなければと。
入院中に1度も顔を見せなかった父からこの様な言葉が出るとは思わなかった。
父は離れていてもちゃんと私の事を考えていたんだね。
久しぶりに一家団欒で夕食を採り楽しい時間を過ごした。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!