俺は外に出ると壁を殴り溜息をついた。
何、さっきからイラついてんだろ?
何もちひろ八つ当たりする事ないよな。
ちひろの怯えた表情が思い浮かんだ。
壁にもたれ掛かり空を見上げた。
俺の心とは逆に空は澄み渡っていた。
そう言えば緑子とまともな喧嘩なんて無かったな。
多少の言い合いはあったけど、直ぐに仲直りしてたからな。
まぁ、だいたい俺が謝ってたんだよな。
緑子と過ごした10年間を思い出していた。
10年も付き合っていればそりゃ別れ話の1つや2つあったけど。
その度に俺達は仲直りして上手くやってきたのに。
なのにどうして。
昨日の出来事が脳裏に浮ぶ。
今回ばかりはもう無理なのかな?
俺は大きく溜息をついて仕事に戻った。
部屋に入ると緑子とちひろはこちらを見たが特に何も言わず、俺も無言で自分のデスクのについた。
俺のデスクは丁度ちひろと対面の位置で、左前に緑子のデスクがある。
椅子に座るとちひろはこちらを向き小声で話しかけて来た。
と俺も小声で応えた。
ちひろは頭を左右に振って再び小声で話しかけて来た。
俺は顔の前に手を合わせてゴメンと頭を下げた。
横目で緑子の方を見るとパソコンに向い黙々と仕事をしている。
俺もパソコンを立ち上げ仕事に専念した。
部屋は静まり返り「カタカタ」とパソコンのキーボードを叩く音だけが響いていた。
そして、昼休みになった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!