ちひろは背を向けて走って行く。
俺は追いかけようと走り出そうとするが足が動かない。
何でだ?
何でだよ?
足下を見ると足に何かが絡み付いている。
地面から無数の手が俺の足を掴んでいる。
次第にその手は増えて行き腰に腕に肩に掴みかかる。
完全に身動きが取れなくなる、更にトドメを刺すかのように首に手が掛かる。
薄れ行く意識の中で小さくなって行くちひろの後ろ姿に手を伸ばそうとするが、伸ばすことが出来ずにその場に倒れ込む。
ちひろが役場を辞めてからまともに寝れてない。
偶に寝ると今みたいに夢を見る。
花火大会のあの日、ちひろの後ろ姿が今も忘れられない。
俺は天井を見つめ1人呟いた。
正直あの日の事は今でも後悔している、あの時追い掛けていればと・・・。
そんな事何度悔やんでもどうにもならないのに。
時折思い出しては後悔して自分の不甲斐なさに嫌になる。
もう一度寝ようと思ったがやはり寝付けずに起きる事にした。
何気に窓に目線を向けるとカーテンの隙間から陽の光が差し込んでいた。
まるで窓に吸い寄せられるように近づくとカーテンの隙間から外を見た。
家の前に女性が立っているのが見えた。
俺は自分の目を疑い目を擦り再び外を見ると女性の姿は無かった。
気のせいだと思ったがやはり気になり念の為外に出て見る事にした。
外に出て家の周りを探したが、誰も居なかった。
家に入ろうと玄関に向かう途中に郵便ポストが視界に入り何気にポストを開けた。
電気料金やらの郵便物の中に見慣れない封筒を見つけた。
宛名は神代ちひろとあった。
俺はもう一度周りを探したが居なかった。
取り敢えず封筒を開けると中には手紙が入っていた。
可笑しくて思わず吹いてしまい。
手紙に話しかけてしまった。
不安が過ぎり俺は眉をひそめた。
その不安は見事に的中してしまう。
俺は手紙を握り締め茫然と立ち尽くして居ると俺を呼ぶ声がした。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!