ピチョン
ピチョン
真っ白な意識の中に水音が鳴り響く。
俺は深い眠りから覚めたようにゆっくりと瞳を開いた。
ぼんやりとした景色からだんだん見えてきたのは銀色やったはずの柱や壁が赤褐色の錆に侵食され、酷いものはブランブランと垂れ下がっとる。
蜘蛛の巣も掛かっとるから、典型的な廃工場やとすぐに理解する。
俺……伊音スズは刑事である2人組の殺人犯の追っとったんや。
殺人方法は2つ、ターゲットの全身の血液をじっくり時間をかけて抜き、血の気がのうなった身体を解剖していく。
ただの殺人やなくて……ターゲットは法で裁けない犯罪者とか血液と摘出した臓器は輸血や移植に利用できるようにしとるとかっていう話もあるけどな。
至って冷静な俺は今度、自分の状態を確認する。
両手は鎖で押さえつけて上げられとって、両足は甲から伸びた細い管の先にパックがあって赤い液体が流入しとった。
聞こえるはずのない血が流れ落ちる音がさっきの水音なら、相当ここは静かなところやろかと職業病の推理をする。
振れば落ちるんちゃうかなと思って、両手を振ったり、脚を動かそうとするも……両手はきつく締められとるのか痛いんやけど、脚は力が入らんし痛くもなんともないわ。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!