女の人はいやなやつでした。
初めからあまり好きでない類の人間だとは思っていましたが、まさかここまでとは思っていませんでした。
思いつく限りの悪事を、彼女はやってのけました。
金魚鉢の淵をなぞってきんきんする音を出しました。
別の女の人たちを呼んではお酒を飲んで大騒ぎをしました。
くさい煙草を吸いました。
そして、いつだってひどく大きな音でラジオを聴きました。
それに対してあのひとが何も咎めないのが、より一層いやでした。
あるとき女の人はひとりで病院に行き、それから、なんと煙草とお酒をすっぱり止めました。
わたしの生活水準は著しい上昇を見せました。
清潔な水のなかでわたしが機嫌よくしていると、あのひとが、分かるのかい?と声を掛けてきます。
「嬉しいんだね、ローレライ。君はおねえちゃんになるんだよ」
…おねえちゃんになる?
その意味がさっぱり分からなかったので、わたしはぴちぴちと尾びれを跳ねさせて抗議をしました。
あのひとは、何も分かってくれませんでした。
ただ、楽しそうに笑ってお魚をくれました。
まるで人間のように、胸が締め付けられるような思いがしました。
こんなにも愚かなひとを愛してしまったのは、わたしの未熟でしょうか、それとも運命でしょうか。
ローレライの逡巡なんて、あのひとの心を割くにも値しない些事だったのです。
--シュウト、あのね。
これはわたしの懺悔よ。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!