「ろ、ろぉれぁー」
ある日、祐はわたしを指さして、そう声を発しました。
「ろぉらぁー」
また同じことを言い、転げ回っては声をあげて笑いました。
「ろぉれぁ、ろぉれぁい」
何かを伝えたいことは分かるのに、肝心の中身はさっぱり伝わりませんでした。わたしはただいつものように漂うばかりでした。
お仕事に行こうとしていたあのひとが飛び帰り、祐を抱き上げて頭をぐりぐりと撫でました。
「祐!いま、ローレライを呼んだのかい?」
祐は笑い続けるばかりでしたが、あのひとは満足したように金魚鉢をさすりました。
「ローレライ、よかったな。流石は祐のおねえちゃんだ」
それでようやく、あのろぉれぁとか言う喃語がわたしを指していたことに気付いたのです。
……わたしは感嘆し、思わずほぅと溜息をつきました。
愛しくてたまりませんでした。
あのひとのしたように、祐の頭を撫でてやりたくなりました。
その代わりに、わたしは得意の宙返りを祐に見せてやりました。
祐が笑ってくれるので、何度も何度も、目が回るまで宙返りを続けてやりました。
彼の笑顔のためなら何だってできる、と、確かに信じていたのです。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。