気ままなランデブーは自然消滅し、年頃になった呂久は見合い結婚をしました。
放任主義の親と自由気ままな姉たちに囲まれて育った、優しくチャーミングな呂久。
まさに引く手あまたでしたが、結局彼が選んだのは、年上の鈴という綺麗なひとでした。
穏やかに愛し合うふたりの結婚生活は、笑ってしまうほどに順調でした。
たぶん、世間がそういう気風だったのでしょう。
呂久は同期を差し置き、早々に昇進してしまいました。結婚から一年経たないうちに、立派な新居が建ちました。
鈴は、男の子と女の子をひとりずつ産みました。眞也と小雪、ふたりとも賢い良い子に育ちました。
わたしはまた眞也に恋をしました、四度目の恋でした。
うたえないわたしでも、ふとした弾みにうたえるようになるのではないか。
そんな叶いっこない夢も見たくなる程の、素晴らしい日々でした。
……夫婦の生活が順調に進むたび、わたしの内面は荒んでいきました。
わたしは天の邪鬼なローレライですので、幸せなときは不幸せを、不幸せなときは幸せを模索してしまうのです。今は前者でした。
そうです、わたしは気付いてしまったのです。
ローレライの寿命が、ひとと比べてとても長い、ということに。
そうこうしているうちに、祐とあかねが順番に死にました。
晩年はまさに落ちる一方だったようで、垣間見た死に顔は落ち窪んで醜いものでした。ふたりの若い頃の記憶は戦争の土ぼこりでくすみ、老いて右腕と知性をうしなってからの、つまらぬ印象しか残りませんでした。
--わたしも醜く死ぬのかしら。
だから、こうして記録を取ってもらっているのよ、シュウト。
貴方だけはわたしを覚えていてね。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。