その日は久々のオフで将也から連絡があり「宏光、いい所へ連れて行ってあげる」「ん?」わけも分からず待ち合わせをし向かった場所は街の片隅に目立たないように建つ小さなショップ。
背中を押され急かされるように扉を開けると、チャリンチャリン鈴の音が鳴り「いらっしゃいませ~」中から声がして店内を見渡せば「雑貨?生活用品…か」石鹸・シャンプー・リンス・香水・入浴剤などもあってよ。
将也がいうに、ここにあるのはΩのフェロモンを
少しでも抑えられるよう開発された言わば性質を
隠す日用雑貨だとか。
ジーっと見つめる店員さんの瞳…
(んなに?まさか俺のことを知っているファンだったりして、な~んてことは…ないない、あはっ‥そんな偶然)
思った瞬間、声を掛けられる。
硬直したかのように、その場が一瞬にして静まり
返った次の瞬間。
なんて答えたらいい?そう困っていると。
もう誤魔化しきれない観念した俺は正直に「実は」と話す、すると。
店内に響き渡る将也の叫び声、ペコペコと謝りまくる店員さん。
(コメディだわ、ははっ…)
最後まで何も聞かないでいてくれた店員さん、その気遣いに感謝しつつ店を出た。
その夜、今度は藤ヶ谷に呼び出され。
この頃になると2人の関係もだいぶ落ち着きを取り戻し、彼奴が必要以上に口をきかなくても俺は気にもしなかったし徐々にふざけ合うこともなくなって
大人の関係?
(あっ、でもいつだったかNHKの少クラで椅子取りゲームをやった時いきなり藤ヶ谷が膝の上へすまし顔で座ったのには驚かされたっけか、ふっ)
懐かしく思い出しながらも待ち合わせ場所へと急ぐ
・藤ヶ谷side
ここは原宿にある某居酒屋「現在、北山待ち中~」どのくらいぶりだろ?2人きりで会うのは昔はよく出かけたりしたっけラフォーレとか。
「いらっしゃいませ~」っと声がし、店の出入口の方へ目を向けると入って来たのは。
待ちわびていた愛しき人、発情の時期じゃないと
俺も安心して傍へ近づくことが出来る。
(ふっ、元気そうで良かった)
横尾の話では時々、頭痛や吐き気があるみたいだと言っていたから心配はしていたんだけれどΩの抑制剤の副作用はかなりキツイと高林先生からも聞いていたし。だから…
数分後、頼んでいた料理がテーブルへと運ばれ俺は「焼き魚定食」北山は、もちろん「生姜焼」
そう言いながらも親切に俺の魚の骨を取ってくれる北山「Thank You、ふっ」その姿が可愛らしく思わず笑ってしまう。
久々に北山と過ごせ嬉しくて仕方がない、しかし
呼び出したのはイチャイチャする為ではない。
そろそろ本題へ入ろうと言葉を掛けると、真顔で
こっちを向いて。
(分かっているじゃん、さすが俺の相棒)
日生の舞台「少年たち」の出演から外されてしまった横尾とニカ、2人の気持ちを思うと心は重い。
もう、デビューも間近ではないかと言われている
俺達。なのに、ここまで来てあからさまに「俺達
が危惧していること」それが、もし本当だったと
したら。
(何度でも言うよ俺達は7人あってのグループ、1人も欠けてはならないんだ)
それが誰であっても━
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。